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ほとんど読書感想、たまに日記、まれに映画感想。


by hiro-iti
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明日の記憶

著者:荻原浩

広告代理店の営業部長、佐伯は最近、ひどい”物忘れ”に悩まされていた。
人の名前を思い出せない、車の鍵をどこに置いたのかを忘れる、簡単な計算を間違えてしまう。
仕事のストレスと歳のせいだ、と自分に言い聞かせていたものの、不眠や眩暈、頭痛なども併発するようになり、思い切って精神科を訪れる。
自分では「鬱病」ではないかと思っていたが、医師から告げられた病名は「若年性アルツハイマー」だった。
実の父が同じく「アルツハイマー」を患い、その病気の怖さを知っていた佐伯は自分自身の行く末に恐れおののく。


呆けて(アルツハイマーになって)大変なのは、その世話をする家族である。
それはもちろん、そうなのだろう。
そういう話をよく聞くし、実際に家族がアルツハイマーを患い、大変な苦労をして介護をしている人も知っている。
思い返せば、アルツハイマーなどの病気をあつかった話は病気を発症した本人の視点から描かれることはなく、ほとんどが家族や周囲の人からの視点である事がほとんどだったように思う。
その為か、病気になった本人の辛さや怖さというものを考えたことがなかった。
不幸にもアルツハイマーとなってしまった人物の視点から描いたこの本を読んで、家族の顔、そして愛した人の顔さえも思い出せなくなるというのは、かなりの恐怖だと言う事に気づかされた。

映画を観た人に感想を聞いてみると、映画では夫婦の絆を主題にドラマチックに描かれているようですが、本の方では徐々に病状が進行していく様が静かに、そして淡々と書かれている印象を受けました。
以前読んだ同じ作者の作品と比べると、話の盛り上がり方に少し物足りなさを感じるものの、心に残る一冊である事には間違いない。

明日の記憶
荻原 浩 / 光文社
ISBN : 4334924468
by hiro-iti | 2006-05-28 01:39 |